Review

2018.09.08 20:30

伝説の巨匠フレデリック・ワイズマンの最もカラフルでエキサイティングな傑作『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』が面白い。

  • Hikaru Tadano

ドキュメタリー映画がブームを迎えていますが、そのムーブメントの土台を作ったともいえるのが、ドキュメンタリー界の巨匠フレデリック・ワイズマンです。

 

 

1930年、アメリカ・ボストン生まれのワイズマンは、イェール大学のロースクールを卒業後、パリのソルボンヌ大学に留学、帰国後はボストン大学ロースクールで教鞭をとりますが、そのときに課外授業のために訪れた精神異常犯罪者のための州立刑務所マサチューセッツ矯正院での体験にインスパイアされ、初監督作品『チチカット・フォーリーズ』(67年)を発表。以降、40本以上の作品を発表してきました。

 

その功績から、2014年のヴェネチア国際映画祭では、栄誉金獅子賞(特別功労賞)を受賞、2016年にはアカデミー賞名誉賞を受賞しています。

 

日本では近年、『パリ・オペラ座のすべて』 (09年)、『クレイジー・ホース・パリ 夜の宝石たち』(11年)、『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝 』(14年)などが公開され、知名度が上がるとともにファンを増やしています。

 

そんなワイズマンの仕事の中核をなすのは、自国アメリカ社会の多様性を描き出すこと。長編第40作目となる『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』(15年)はその最高傑作といえるでしょう。

 

 

ニューヨーク、クイーンズ地区にあるジャクソンハイツというエリアは、南米、インド、アジアなどからの移民が多く暮らし、そこでは使用されている言語は167といわれているほど。ラテン音楽が鳴り響き、エスニック料理の匂いが漂います。

 

 

ワイズマンは、このカラフルでエキサイティングな街にカメラとともに入り込み、教会やモスクからレストラン、小さな商店街、コインランドリー、ボランティア、セクシャル・マイノリティ、不法滞在者などに視線を向けます。

 

 

ワイズマン曰く「19世紀の終わりのニューヨーク市ローワーイーストサイドを連想させる、真のアメリカというべき人種のるつぼ」。

 

 

ワイズマンの魅力といえば、まるでそこに生きている人々の視線を代弁するかのような自然なカメラワークと、綿密な編集によって浮き彫りにされる人間と人間模様ですが、この作品でも9週間にわたってカメラを回し続け、120時間もの映像を10ヶ月かかって編集した189分は、その長さを感じさせないほど躍動感に満ちてエキサイティングです。

 

88歳にして精力的に制作活動を続けているワイズマン。『エクス・リブリス−ニューヨーク公共図書館』(仮題、17年)の日本公開も来春に控えていますが、この9月のヴェネチア国際映画祭では、インディアナ州のモンロヴィアに焦点を当てた『Monrovia, Indiana』(原題)が特別招待作としてワールドプレミアされました。

 

『Monrovia, Indiana』(原題)より

 

この秋、もはや生きる伝説といわれるワイズマンを見逃さないように!

 

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『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』(原題:In Jackson Heights)

監督・録音・編集・製作/フレデリック・ワイズマン
2015年/189分/ドルビー・デジタル/ヴィスタサイズ/アメリカ・フランス合作

 

日本公開/2018年10月中旬シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
配給/チャイルド・フィルム、ムヴィオラ
公式サイト
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