Review

2017.10.25 21:34

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』子どもたちを取り巻く恐怖の正体【クロスレビュー】

  • Takashi Fujii

あなたが子どもの頃、こわかったものをひとつ思い浮かべて欲しい。それは、今もまだこわいだろうか。

1990年版の『IT/イット』は、小学生の時に見たと思う。劇中の子どもたちと同じ年頃の時に、ピエロの恐怖を体験出来たのは今にして思えば面白い。本来は道化として笑いを振りまくはずのピエロの、あの悪意に満ちた不気味な笑み、赤い風船が割れて飛び散る血しぶきにまるで気付かない大人たち、そして少年たちの友情……。また、少年時代を描いた前編と、大人に成長した後編の前後編構成も印象的で、大人になった今でも記憶に残っている作品だ。

それから27年後(ペニーワイズが来る周期と一緒だ!)、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』として再び映画化された。少年時代に過ぎたはずの恐怖が、大人になって帰ってきた―まるで、『IT/イット』のストーリーのように。

子どもにしか見ることが出来ない、ピエロの姿をしたペニーワイズに呪われた街。その悪魔におびやかされる主人公たちは“負け犬グループ”と呼ばれており、たとえペニーワイズが現れなかったとしても、ひとりひとりが日常で様々な恐怖に包まれている。

陰湿で凶暴ないじめっ子連中、友達がいないことへの孤独感、第二次性徴で変化する身体へのとまどい、嘲笑される吃り、やりたくない家業を手伝わされること、大切な家族を助けることが出来なかった後悔と寂鬱、そして子どもを力でねじ伏せ、狭くて暗い家に閉じ込めようとする、無理解な親。

そう、大人になると記憶の中で美化されがちだが、子どもから思春期にかけての頃は、様々な「こわいもの」が存在しているのだ。

大音響で驚かすショッカー描写や、残虐性だけでは優れたホラー映画とは呼べない。良質なホラー映画には、誰もが常に抱えている恐怖がフィクションの中でしっかりと根付いているものだ。生理用品を購入し始めた女の子が、怪異に襲われて浴室が血まみれになる幻覚を見るのは、つまり『キャリー』(76年)の有名なオープニングシーンと同じ意味を持つ。キャラクターひとりひとりが持つ「こわいもの」が、本作では深く描かれているから、変幻自在にターゲットが恐れるものになるペニーワイズの常軌を逸した恐怖に説得力が出てくる。

そして勇気をもって仲間とともにペニーワイズに立ち向かい、文字通り打ち倒そうとするアクションとして発露されることによって、自身の恐怖を乗り越えることがより感動的になっている。本作の日本語サブタイトルは「“それ”が見えたら、終わり。」だが、“それ”が見えても終わりじゃないのだ。恐れずに勇気を出すことで、自分の中の影に抗うことが出来ると思わせてくれる。

そんなシビアな状況の中にあっても、楽しい友情のひとときや淡い恋心といった、その年代特有のきらめきも描かれており、ひと夏の少年の冒険を描いたジュブナイルとしての魅力も忘れていない。これを支えているのが、子どもたちを演じたキャストたちの演技力とリアルなセリフの妙だ。メインキャストがほぼ子役のみの映画だが、これだけしっかりとドラマが成立していることに改めて驚く。

大人になって心と身体は安定し、学校や住んでいる街以外にも世界は広がっていることを知り、仲間はずれはただの価値観の違いであると気付き、不気味なピエロの映画はただの映画だとわかることで、子どもの時に抱いていたあらゆるものは怖くはなくなった。

それでも、大人になっても「こわいもの」は形を変えてすぐそばで、口を開いて待っている。

あの夏、友情とともに闇に立ち向かう勇気を知った彼らは、どんな大人になるのだろうか?そして、そんな成長した彼らの前に現れる恐怖の正体とは何だろうか。

9月にアメリカでの公開が始まったばかりの本作だが、なんと『エクソシスト』の興行収入2億3300万ドルを超えて、ホラー映画史上No.1作品となる大ヒットとなり、2019年には続編が公開されることが決定している。

大人になっても、ホラーは終わらない。

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『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(原題:IT)

監督・脚本/アンディ・ムスキエティ
出演/ジェイデン・リーバハー、ビル・スカルスガルド、フィン・ウルフハード、ソフィア・リリス、ほか
配給/ワーナー・ブラザース映画
2017年/アメリカ/カラー/デジタル/英語/135分

11月3日(金・祝)丸の内ピカデリー、新宿ピカデリー他全国公開!

公式サイト

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