Column

2017.08.26 17:23

【単独インタビュー】『スパイダーマン』から『ワンダーウーマン』まで、アメコミ映画の伝道師・杉山すぴ豊氏が語る!

  • Akira Shijo

日本におけるアメコミ映画の伝道師といえば、”すぴさん”こと杉山すぴ豊さん。ライター、映画評論家としてコラム記事を執筆されているほか、テレビ番組やイベントにも多数出演するなど、精力的に活動されています。

今回は、そんなすぴさんにインタビュー。彼のオリジン(原点)から最新作の感想、これからの作品への期待についてもたっぷり語っていただきました!

※このインタビューは『スパイダーマン:ホームカミング』試写会直後に行われたものであり、同作の若干のネタバレが含まれます。

――よろしくお願いします。

「よろしくお願いします。アメキャラ系映画ライター、杉山すぴ豊(すぎやま・すぴ・ゆたか)と申します」

――いきなりなんですが、すぴさんの“すぴ”って、何が由来なんですか?

「スパイダーマン(“Spi”der-man)からなんですよ(笑)もともと東映版『スパイダーマン』(78年~)が好きだったのもあって、彼は、僕がマーベル、アメコミを好きになるきっかけになった存在なんです」

――すぴさんは現在、様々なメディアで活躍されていますよね。どういった経緯でこのお仕事を始められたんですか?

「もともとアメコミが好きだったんですが、仕事にするきっかけになったのは2002年公開の『スパイダーマン』の時ですね。時効だから話していいかな。当時の配給だったソニー・ピクチャーズ エンタテインメントさんには、ソニーから出向されていた方が多く、スパイダーマンに詳しい方が少なかったようなんです。そこで、広告代理店で働いていた僕にお呼びがかかり、宣伝チームに入りました」

© 2002 Marvel characters,Inc.

「そんな中、サム・ライミ監督が来日するということで、彼のファンだった竹中直人さんとの対談の企画が持ち上がりました。この対談にはスパイダーマン好きの東京スカパラダイスオーケストラの大森はじめさんもいらして。ただ竹中さんは『死霊のはらわた』(81年)からのファンだったので、『死霊のはらわた』の話しかしなくなっちゃうかもしれない(笑)話を『スパイダーマン』に軌道修正する進行役として急遽、僕が”映画ライター”を名乗って入ることになりました。その対談記事をいろんな雑誌向けに書いたりしたのがそもそものきっかけですね。

本来はそこで終わるはずだったんですが、日本の自動車会社さんの車が『X-MEN2』(03年)に登場することになりまして。そこで映画会社向けに宣伝する原稿が必要になり、再び僕に声がかかりました。その後、『スパイダーマン』(02年)や『X-メン』(00年)のDVDが出ることになって。DVDに何か特典をつけることが当時の流行りだったんですが、ぜひ原作コミックの翻訳本をつけたいということになりました。ただ、当時のMARVEL(マーヴル)から『1回限りの翻訳』というのはダメ、ということを言われて。シリーズとしてしかるべき形で出版する形でないと許可が下りないということで、紆余曲折の末、新潮社さんが名乗りを上げてくれまして。そうやって”アメコミ新潮”が生まれました」

© Marvel

「今はもう解散しちゃったんですけど、『スポーン』のフィギュアの輸入を手がけていた会社があって、そこが当時のハズブロ(おもちゃメーカー)の正規輸入代理店をやっていたので、スパイダーマンのフィギュアのカタログも届いてたんですよ。ソニー・ピクチャーズさんがグリーン・ゴブリン(『スパイダーマン』のヴィラン)ってどんなキャラクターかわからない、という時にそのカタログを参考にしたことを覚えてますね。オモチャで初めてデザインが判明したキャラだったので。当時はインターネットがメジャーになりはじめた時期で、アメコミ映画について書ける人が少なかったこともあり、僕がいろいろ書くようになり、今日に至るという形です」

――ところで『スパイダーマン:ホームカミング』、どうでしたか?

「メチャクチャ面白かったですね。スパイダーマンの“小僧”な感じがとてもよく出ていて。これまでのスパイダーマン映画ってやっぱりどれも暗い要素が多かったんですが、今回は明るくてよかったです。映画としては『スパイダーマン2』(04年)の方が完成度が高いと思うんですが、”スパイダーマンの映画”としては今回の『ホームカミング』がとてもよくできていて、キャラクターとしても完成されていると思いました。コミックで有名なシーンのオマージュなんかもあって」

©2017 CTMG, Inc.

「後半からホームメイド・スーツの話になるのもすごいなと思いました。トニーがもう一回新しいスーツをくれるかと思っていたんですが、そうならないのがまた良い。普通は最初ホームメイド・スーツで活躍して、後からハイテクスーツになるのがセオリーだと思うんですが、今回は逆だったという」

――今夏のアメコミ映画というと『ワンダーウーマン』も公開されますよね。もうご覧になられたとか。

「はい、映画としてまずよくできていましたね。最近のDC映画にちょっと足りなかった『みんなのために戦う』っていう部分がちゃんとあるのがうれしかったです」

© 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

「あと、これは監督が女性だからかもしれないんですが、アクションがとにかく見やすいですね。派手なアクションでも画面がちゃんと固定されていて、何が起こっているかがわかりやすい。主演のガル・ガドットも、キレイでカッコイイ人だと思っていたら、意外と可愛さもあって。とてもよかったと思います」

――マーベルとDCは、二大コミック出版社としてよく比較されますよね。すぴさんはどういう違いがあると思いますか?

「そもそもコミックの作風の差でもあると思うんですが、マーベルは『普通の人間が超人になっちゃって、さあどうする』ということが多いですよね。そこからヒーローになれるかどうかという。DCは”神話”とも呼ばれますが、スーパーマンやワンダーウーマンも『超人の中に人間っぽさがある』というのが魅力としてあって、そこが似て非なる要素としてあると思います。トニー・スタークの仮の姿はアイアンマンだけど、バットマンの仮の姿がブルース・ウェイン、というか」

――マーベルは”スーツの中の人間”というか、キャラクターの人間的な面を描くことが多いと聞きます。アメコミの魅力として「読者が共感できる」というのは大きいですよね。

「このあいだ、ある取材を受けまして、そこでは『いま”アメコミ女子”が増えている』という切り口の特集を組んでいたんです。そこで出ていた意見によると、なんで女性にアメコミが人気なのかというと、いわゆる”白馬の王子様”を求めているわけではなくて、孤独を抱えながらも頑張っていくアメコミ・ヒーローたちの姿に共感する女性が増えていると。アメコミ好きの女性が増えていることは、女性の社会進出とも関係があるんじゃないか、という結論でした。

それは僕、すごくよくわかって。ヒーローものって仕事のメタファーだったりもするんですよね。世の中に出ると、イヤな人がいる時、昔からそうなんですが『あ、この人は僕にとってのグリーン・ゴブリンなんだ』と思えば意外と許せるんですよ。スパイダーマンにドクター・オクトパスやクレイヴン・ハンター(ともにヴィラン)がいたりするのと同じように、みんな自分のヴィランなんだと思えば許せるというのがあって。学生より、一生懸命やっても報われない社会を知ってからの方が、アメコミってハマれるかもしれませんね」

こんな上司はイヤだ © 2002 Marvel characters,Inc.

「ワンダーウーマンだって、純粋な女の子が『よし、仕事頑張るぞ!』って入社したらそこがすごいブラック企業だったみたいなもので。でも頑張って管理職になるみたいな。

あとこれは僕の持論なんですが、X-MENが好きな人って意外と自分がX-MENっぽい人なんですよ(笑)ちょっと周りから浮いてる人というか、才能はあるんだけど周りと上手くいってない人。だいたいX-MEN好きだと思います」

――それぞれのキャラクターがいろんな人の共感を呼ぶからこそ、いろんな層にウケているのかもしれませんね。『ホームカミング』のスパイダーマン/ピーター・パーカーも、いわゆる現代の若者っぽさがよく出ていたように感じます。

「そうですよね。以前、トビー・マグワイアからアンドリュー・ガーフィールドに俳優が交代した時、アヴィ・アラッド(マーベル・スタジオズ創業者)氏の言では『悩める若者がヒーローになる』というコンセプトは変わらないけど、その”悩める若者”の定義が変わったのだと。トビーの頃はちょっとダメな子が悩んでいたけど、アンドリューの頃はリア充っぽい子の方が悩んでいた、と」

©2011 Columbia Pictures Industries, Inc.

「最近だと『妖怪ウォッチ』とかでもそうなんですが、昔は『ドラえもん』ののび太くんみたいな子にみんな共感していたんだけど、今はあそこまでの劣等生にすると誰も共感してくれない。”なんでもこなすけど、陰が薄い子”が共感されやすくて、劣等生は、それはそれで逆にキャラが立っているから、人気者になっちゃう時代になったんですね。それぞれのスパイダーマンの違いもそれに近いものがあると思っていて、(サム・ライミ版の)2002年の若者の悩みと、いまの若者の悩みの形も違うと思うんです。

アンドリューのピーターってやたらパソコンで調べまくるんだけど、トムホのピーターはほとんどスマホしか使わない。そういう、単純に時代の違いによる所もあると思いますし。今回のピーターの悩みは『認められたい』という、すでにいろんなヒーローが存在する中で、自分の立ち位置って何?みたいな面が大きかったように感じます。いまの子って、たとえば野球少年がいたとして、昔は高校野球から巨人に入って……とか思うんですが、今はいきなりメジャーリーグ行きたいなと思っているんじゃないかなと。ヒーローであることは当たり前、アベンジャーズに入れるかどうか、という点で悩んでしまっているというか」

――映画からマーベルやDCのファンになった方も多いと思います。そんな方々がコミックを楽しむためのポイントや、おすすめのシリーズなどはありますか?

「やっぱり、映画で好きになったキャラクターが出ているやつがいいんじゃないかなと思いますね。映画になった元のお話とかでもいいかも。映画はわかりやすく翻案されていることが多いので、そこを入口として。あと、別に遡って昔のやつから読まなくても、リブートされている最近のやつからでいいんじゃないかと思います。

特にオススメのシリーズということであれば、バットマンは読みやすいと思います。彼のオリジンさえ知っていれば楽しめるような、犯罪もの、探偵ものとしてよくできたストーリーのものばかりなので。マーベルだとキャプテン・アメリカが好きですね。深いドラマ性があって、読みごたえがあるものが多いです。この二人は特にお話が面白くできているので、初心者でも読みやすいかもしれません。あとデッドプールは間違いないですね。問答無用に面白いし、キャラクターもいい」

『バットマン:ゼロイヤー 陰謀の街』2015年 ©DC Comics

「かつて『マーヴルクロス』(小学館、96年〜)っていう伝説の雑誌がありまして、そこでは一番面白いエピソードだけがセレクションとして邦訳されていたんですね。それに携わっていた石川裕人(翻訳家・編集者、アメコミ番長)さんもおっしゃっていたんですが、そもそも「面白いものしか日本に入ってこない」というか、いま出版されているアメコミの邦訳本って、基本的にある程度以上面白いものしかないんですよ。古いやつならなおさら名作と呼ばれるレベルのものしか翻訳されない。なので、とにかく気になったものから手に取ってみたらいいと思います」

――コミックといえば、先ほどのお話にも出ましたが、“アメコミ新潮”は僕が初めて読んだアメコミでもあります。もう少しウラ話などはありますか?

「当時のMARVELから”アルティメット”(2000年代から刊行されているシリーズ。設定を仕切り直し、現代的にリメイクされている)以外はダメ、『マーヴルクロス』みたいな、いま刊行されているような形の単発の翻訳もダメ、ということを言われて、長期契約での出版しか認められなかったんです。ほとんどの出版社さんが難色を示していたんですが、そんな中でありがたいことに『やります!』と声を上げたのが新潮社さんだったんですね。

柳亨英(翻訳家・ライター)さんや光岡三ツ子(翻訳家・ライター)さんも編集に動いてくれて、とにかく日本でアメコミの翻訳本をもう一度ちゃんと出そう、ということで。批判もあったんですが、吹き出しや書き文字(擬音など)を日本のマンガっぽくアレンジしたり、子供たちが買えるように1,000円という価格設定にしたりと頑張ってもらえて、さまざまなしがらみ、できることが限られている中でのベストの選択だったんです」

©Marvel

「もう一つ、今でも感謝していることがあります。新潮社さんは老舗の出版社なので、とにかく本屋さんを大切にされているところだったんですが、アメコミのためということで、ちょっと例外的な売り方をしてくれたんですよね。当時アトラクション(アメージング・アドベンチャー・オブ・スパイダーマン・ザ・ライド)が導入されたUSJのおみやげ屋さんとか、書店じゃない流通に卸してくれたり、あとはコンビニで白黒印刷のオマケつき廉価版を出してくれたりだとか。

『マーヴルクロス』などで目が肥えていた旧来のアメコミファンからはメチャクチャに叩かれたんですが、今になってみると新しい層の開拓としては最善の形だったんじゃないかと思います。僕自身はジャック・カービーの描いた昔のとかも読みたかったんですけどね(笑)」

――この先も『マイティ・ソー バトルロイヤル』や『ブラックパンサー』そして『ジャスティス・リーグ』など、多数のアメコミ映画が公開を控えています。どういう点に注目しておられますか?

「ソーの邦題の『バトルロイヤル』は僕、けっこう好きなんですよ。彼の持つ、よい意味でのバカバカしさが出ているじゃないですか。事実上『プラネット・ハルク』(宇宙に放逐されたハルクがある惑星の王となり、地球に復讐するエピソード)の話でもあると思うので、楽しそうなイベント映画としての面も打ち出してほしい。『ゴーストバスターズ』でもそうでしたが、クリス・ヘムズワースはバカっぽい演技がウケていましたよね。彼、ホントはとてもいい人なんですけどね(笑)」

©Marvel Studios 2017

「『ブラックパンサー』は、まだ予告しか出ていないんですが、あれを見る限りちゃんと黒人映画、ブラック・ムービーになっているんですよね。『ワンダーウーマン』では女性監督が女性ヒーローを描いていましたが、『ブラックパンサー』では黒人監督が黒人ヒーローを描くと」

「ダイバーシティ(多様性)的な発想としても、とてもいい映画になると思っています。女性ヒーローというと『キャプテン・マーベル』も楽しみですね。ブリー・ラーソンが空を飛ぶのも見たいし(笑)あとはそういう面が日本でどこまでウケるか、ですよね。今はアメコミファンだけで(興行収入が)10億円くらいはいける時代になってきていると思うので、どこまで上乗せできるか、伸ばせるか」

――近年は口コミ、ファンの声で興行収入が大きく伸びることもよくありますよね。アメコミのファン層もここ数年で大きく変化してきたように感じます。

「やっぱり映画の影響が大きくて、マーベルロゴのついたTシャツを着てる人もよく見かけますよね。スタン・リーがいなければスパイダーマンは生まれてないし、僕も小野耕世(日本マンガ学会会長、海外コミック研究の第一人者)さんがいなかったらアメコミにハマることはありませんでした。これから先に伝えていくためにも、アメコミが好きな人ひとりひとりが周りに広げていくこと。“伝道師”的な人の存在が不可欠なんじゃないかと思います」

――ありがとうございました!

昔があったから今がある。現在のアメコミブームも、紆余曲折あってこそたどり着いたもの。願わくばより多くの人がアメコミを、そしてヒーローたちを愛してくれますように!杉山すぴ豊さん、貴重なお話をありがとうございました!

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杉山すぴ豊

アメキャラ系ライター、映画評論家。アメコミ原作映画やドラマについてのコラムを各種雑誌や劇場パンフレットに執筆しているほか、テレビやイベントへの出演も多数。アメコミ・ヒーローの魅力を伝える活動を続けている。