Review

2016.11.05 12:57

【最速レビュー】ドクター・ストレンジ – 変幻自在のニューカマー

  • Kazutaka Yokoo

※本記事内には『ドクター・ストレンジ』のネタバレが含まれます。

©2016 Marvel

©2016 Marvel

世界的な大ヒットを記録しているシネマ・フランチャイズ、マーベル・シネマティック・ユニバースの最新作『ドクター・ストレンジ』の試写会が本国公開に合わせた11月4日に開催された。マーベルといえばスパイダーマンなど王道ヒーローが有名だが、本作は事故で医学の道を絶たれた傲慢な天才外科医が、再起を賭けて渡った東洋で魔術と出会い、改心を経て医者ではなく魔法使いとして人々を救うというユニークな作品である。以前の拙文にて、本作はまだマーベル作品に足を踏み入れたことのないビギナーにこそ響く作品だろうという予想をしたためたが、果たしてその予想は的中することとなった。

本作は、これ以上ないほどにマーベル作品の導入にふさわしい出来栄えの作品であった。その一方で、完全に予想外の事態が起きた。なんと、コアファンにしか刺さらないような要素も山ほど詰め込まれていたのだ。正直な話、本作はストレンジを世界観に招き入れる導入として、無難な出来になるだろうと踏んでいたのも事実だ。マーベルのことだ、外しはしない。だが、まぁ、そこそこだろうな…と。現実は違った。作中で見られる玉虫色の映像美のように、鑑賞する側の知識の度合いや楽しみ方に応じて、180度姿を変えるという「怪作」だったのだ。先述のとおり前回のコラムではビギナー向けの楽しみ方をじっくりと考察したので、今回は一ファンとして、注目したポイントを気ままに書き流そうと思う。せっかくここまで読んで下さったビギナーの方には何が何だかという内容が後に続くことになるが、どうかご容赦頂きたい。

さて、本作には鑑賞中の私に恥ずかしげもなく身を乗り出させた「あるシーン」があった。それは「雷」だ。物語の中盤、死の目前にアストラル体(いわゆる幽体離脱)となったエンシェント・ワンが、同じくアストラル体となったストレンジと最期に語り合う場面があった。彼女は時間遡行能力によってこの結末を何度も目にし、回避しようとしてきたことを述懐しながら、はらりと舞い落ちた雪を残してその命を散らした。この場面は本作の重大な転換点であり、本来なら師を失ったストレンジの心情の変化を見るのが筋だろう。だが、しかし。その雪の舞い散る後方にこそ、私の胸をときめかせるものがあった。本作はマンハッタン、ロンドン、香港をはじめとした世界各地を空間転移の魔法で転々と場面転換しながら進行していくが、この場面で二人が立っていたのはニューヨークにある病院のバルコニーだったと記憶している。そのバルコニーから見える摩天楼を包む夜の空に、ふと雷が光ったのだ。最初は場面の不穏さを示す天候の変化とも思ったが、どうやらそうではない。エンシェント・ワンの独白が続くあいだも空は不自然に2度、3度と光り、あまつさえカメラがそちらの空を捉えはじめたのだ。この重要な場面で、スクリーンに映っていたのは雷鳴轟く曇天の空である。そう、熟練のマーベルファンならきっとピンと来たはずだ。雷の後には彼が来る。その後も本筋を追いながらこの意味深な雷鳴の答えを今か今かと待っていたが、果たして最後には一体何が起こったのか――ぜひとも劇場で確認して頂きたい。また、ちょっとメタな部分では、主演のベネディクト・カンバーバッチとレイチェル・マクアダムスの組み合わせにニヤリとさせられた。そう、まさかこんなところで違う世界のシャーロック・ホームズとアイリーン・アドラーの競演を見られるとは…ちょっと得した気分である。シャーロックといえば、我らのMCUにはもうひとりシャーロックがいたはずだ。実は本作の公開に前後して、さっそくストレンジの『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』への客演が決定された。役回りなどはまだ定かではないが、髭のステキな2人のシャーロックがMCUで競演する日も近いのではないだろうか。今後もMCUから目が離せそうにない。

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さて、本筋に話をもどそう。本作は、ビギナーが楽しむコンテクストとコアファンが楽しむコンテクストの2つが作り込まれた、まさに魔法のような作品だ。また、その映像美も事前の期待通りの出来栄えで、IMAX3Dや4DXなど、様々な鑑賞環境を試してみたくなること請け合いの美しさだ。ストレンジが作中で魅せた得意技のひとつが、時間を何度も巻き戻して相手を翻弄するというものであった。奇しくも本作自体が、何度も巻き戻して最初から楽しめるように作られているのは魔法にしてもできすぎた話だろうか。ともあれ、まずは1回目だ。この冬、まだ見ぬ魔法の世界に足を踏み入れてみてはいかがだろうか。