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2016.11.05 13:38

【最速レビュー】ドクター・ストレンジは、シャーロックを超えてカンバーバッチの代表作に!

  • Hikaru Tadano

ベネディクト・カンバーバッチは、ドクター・ストレンジのハマり役だ。キャスティングが発表されたとき、おそらくほとんどのマーベル・ファンはこう思ったに違いない。

映画『ドクター・ストレンジ』は、鼻持ちならない自信家の天才外科医スティーブン・ストレンジが、交通事故で未来を断たれ、どん底を味わうが、魔術の才能を開花させ、ドクター・ストレンジというヒーローとしての道を歩み始めるという物語だ。手術室での抜け目のない表情、タワーマンションの一室とおぼしきタキシード姿、ランボルギーニを駆るシーン。ティーザー予告でも、嫌なヤツのオーラ撒き散らしていたが、 “トニー・スターク型“ともいえるマーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)の新ヒーローを演じられるのは、彼しかいない。

実際、スティーブン・ストレンジは、彼の出世作であるBBCのドラマシリーズ『SHERLOCK/シャーロック』(2010年〜)での主人公のキャラ設定に似ているところがあるからだ。ずば抜けた頭脳と分析力で難事件を解決するものの、辛辣な言葉で、敵ばかりかときには愛する人も傷つけてしまうといった欠点もある。いわゆる“欠陥人間“のシャーロックは、マシンガントークを得意とする芸達者なカンバーバッチの当たり役となった。初期の段階では舞台を中心に活動していたとはいえ、その実力からいえば30代半ばでのブレイクは、遅咲きといえるだろう。その後もスティーブン・スピルバーグの『戦火の馬』(2011年)や東西冷戦下の情報戦を舞台にした『裏切りのサーカス』(2011年)、アカデミー賞作品賞を受賞した『それでも夜は明ける』(2013年)などでバイプレイヤーとして存在感を発揮し、いまやスター・ウォーズ監督となったJ.J.エイブラムスの『スタートレック イントゥ・ダークネス』(2013年)で演じたジョン・ハリソンは、ヒース・レジャー(かつてはジャック・ニコルソン)が演じたジョーカーに並び評されるほどインパクトの強いヴィランとなった。

ハズレ知らずのカンバーバッチだが(ジュリアン・アサンジを演じた『フィフス・エステート/世界から狙われた男』(2013年)は、作品の出来自体が悪すぎたので、カンバーバッチは免責)、彼が最も輝いたのは、実在の天才数学者アラン・チューリングを演じた『イミテーョン・ゲーム/エニグマと天才数学者』(2014年)だろう。

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アカデミー賞主演男優賞にノミネートされ、一気にブランド価値を上げたこの役もやはり、天才でありながら、礼儀知らずのKYで人間的には未熟者というキャラ。カンバーバッチのパブリックイメージはすっかり定着してしまった。そもそも、人間的には欠陥だらけだけれど、スゴイことを成し遂げる天才というのは、凡人である我々の羨望を掻き立てるようで、映画の主人公にピックアップされやすい。スティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグなどのIT長者たちも然り。偉人伝の変化球タイプとでもいおうか、自分とはかけ離れた変わり者の波乱に飛んだ人生には、なんともいえない魅力がある。

で、映画『ドクター・ストレンジ』である。

本編を見て、意表を突かれた。
カンバーバッチ演じるスティーブン・ストレンジは、公開前の予想とは違い、そこまで傲慢でもなく(自信家ではあるが)、辛辣でもなく、むしろ、カンバーバッチの隠れキャラである茶目っ気のある少年っぽさやユーモアさえ見られる。レイチェル・マクアダムス演じる同僚で元カノ(?)の医師(コミックではナース)やコミックでは男性である、ティルダ・ウィントン演じる魔術の師匠エンシェント・ワンという女性たちとの絡みの部分では、その傾向が顕著で、いままでのカンバーバッチにはない、柔らかな人間味が感じられる。

©2016 Marvel

©2016 Marvel

シリアスドラマになるだろうという、大方の予想を見事に裏切って、コメディタッチも取り入れて、MCUらしいテイストに仕上がっているあたりは賛否分かれるかもしれないが、ともかくアメコミ原作のスーパー・ヒーローものは、いかに人間味を表現し、観客に共感させるかが肝だ。『ドクター・ストレンジ』でも、カンバーバッチ以外にも、ヴィラン役のマッツ・ミケルセン(残念ながら、その魅力を十分に発揮できていたとはいい難いが、メイクなどルックスはイケている)をはじめ、ティルダ・スウィントン、キウェテル・イジョフォー、レイチェル・マクアダムスといった演技派で俳優陣を固めているのもそのせいだろう。ストレンジが「時空を操る」魔術の使い手なので、そのモダン・サイケデリックなヴィジュアルの実現のために俳優たちはグリーンバックでの演技も多かったはず。この当たりももちろん、実力のある俳優たちが大いに貢献している。

それまでのマッチョタイプの俳優ではなく、性格俳優のロバート・ダウニー・Jr.がトニー・スターク/アイアンマンを演じたことが、『アイアンマン』から『アベンジャーズ』シリーズに至るMCUの成功の大きな要因であることは疑いようがない。

2008年の『アイアンマン』から2012年の『アベンジャーズ』までのフェーズ1、2013年『アイアンマン3』〜2015年の『アントマン』までのフェーズ2に続いて、MCUは2016年に『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でフェーズ3に突入した。『シビル・ウォー〜』では、アイアンマンVSキャプテン・アメリカという2大ヒーローの頂上決戦により、MCUはひとつの時代を終えたように思う。

アイアンマンによって牽引されてきたMCUの未来が正しい方向に向かうためにも、『ドクター・ストレンジ』は重要な布石である。すでに2018年に公開予定の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』にも参戦が発表されているドクター・ストレンジだが、果たして、彼は、MCUを牽引するスーパー・ヒーローとなれるのか。この“ドクター・ストレンジ・ビギニング”ともいえるこの作品には、その可能性を予感させる。

©2016 Marvel

©2016 Marvel

ちなみに、これから鑑賞する人は、エンドクレジットが終わってからもすぐには席を立たないで下さい。いつもながら、意味深な映像が待っています!