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2018.07.20 16:45

【単独インタビュー】『ジュラシック・ワールド/炎の王国』製作総指揮コリン・トレボロウが語る『ジュラシック』新シリーズに秘められたメッセージ

  • Mitsuo

※本記事には映画『ジュラシック・ワールド/炎の王国』のネタバレが含まれます。

“恐竜”に巨匠・スティーヴン・スピルバーグが命をふきこみ、映画史に偉大な足跡を残した『ジュラシック・パーク』シリーズ。2015年に『ジュラシック・ワールド』として新たにスクリーンに登場すると、全世界のトータル興行収入は16億7,000万ドルを突破、日本でも2015年度公開映画の“年間興行収入No.1”となるメガ・ヒットを記録しました。

そして『ジュラシック』シリーズ誕生25周年という節目を迎える2018年、三部作にわたるシリーズの最新作『ジュラシック・ワールド/炎の王国』が、ついに7月13日(金)に日本公開!

前作『ジュラシック・ワールド』で監督・脚本を務め、今作『炎の王国』では脚本・製作総指揮を務めたコリン・トレボロウ。2021年に公開予定のシリーズ完結編の監督にも決定している同氏が、『ジュラシック』新シリーズに込められた思いから今後の展望まで、たっぷり語ってくれました。

Photo: Kazuhiko Okuno

──日本へようこそ!東京に来るのは2回目ですか?クリス・プラットは「すきやばし次郎」に行っていたようですが、あなたも一緒だったのですか?
東京に来るのは、映画のプロモーションでは2回目、トータルでは4回目ですかね。2日前に着いて、とても楽しい時間を過ごしています。今回は家族全員で来ているのですが、城崎温泉に数日行く予定で、それがいちばん楽しみです。「次郎」には行けなかったのですが、「久兵衛」に行きました。素晴らしかったです。息子が9歳になるのですが、お寿司が大好物でとても喜んでいました。

──あなたの『ジュラシック・パーク』との最初の出会いは、どのようなものでしたか?
私が16歳の時でした。仲の良い友達が地元の映画館で働いていて、当時はフィルム上映だったので、公開前夜に上映テストを行わなければならなかったのですが、友だちが”深夜0時に映画館に来れば観られるよ”と声をかけてくれて。両親の目から隠れて、ベッドの中に枕を入れて家からこっそり抜け出して、1マイルほど歩いたところにある映画館に行きました。カリフォルニア州オークランドの、古くてとても美しい、巨大な”映画の宮殿”のようなところだったのですが、劇場の真ん中に一人座り、『ジュラシック・パーク』をまさに独り占めしました。

──『炎の王国』の完成形を初めて観た後のファーストリアクションはどのようなものでしたか?
製作過程をずっと見てきているので、完成した本編をはじめての気持ちで観るというチャンスはありませんでした。でも、本作のJ.A.バヨナ監督のファーストカットを観た時は、とても興奮しました。彼は観客の感情を引き込むことに長けた素晴らしい監督で、これまでのジュラシックシリーズの作品との違いを出しながらも、シリーズが持つメッセージを正確に捉えていて、私が期待した全てが詰まっていました。

──バヨナ監督にはなにかアドバイスをしましたか?
いいえ、絶対にそんなことはしません。もちろん私なりに監督をサポートし、アイディアを出したりしましたがね。映画の制作過程は途方もない出来事の連続ですが、撮影の時も編集の時も、監督の邪魔にならない範囲でほぼ毎日私は現場にいました。バヨナ監督の自由を奪うことなく、いくつかアイディアを試してどれがうまくいくかやってみようと、選択肢をひろげるように心がけました。

──前作と違い、自分の脚本を監督しなかったことについてはどのように感じましたか?
楽しむことができました。映画のストーリーに加えて、監督が持つのビジョンを実現することに対して、脚本の立場からフォーカスした気がします。脚本家の仕事に私は尊敬の念がありますし、それ自体職人技のようなものですが、脚本家は”自分が監督だったらそうしない”と思うようなことがあっても、それが間違いなわけではないということを受け入れなければなりません。そういった心持ちに切り替えるのには、少々時間がかかりましたがね。

──本作の脚本を執筆するにあたり、オリジナル3部作や前作から一番大切にしたことは何でしょうか?
オリジナル3部作を一つの長編ストーリーと捉えた場合、恐竜から逃げなければいけないというシチュエーションを作っては前作のキャラクターを再び登場させていたように感じます。ストーリー性を持った新シリーズを作るのなら、キャラクターを中心としたフランチャイズにしなければならないと私は考えました。そのためには、同じキャラクターを長く登場させ、彼らのアクションがきっかけとなり起きる出来事を語らなければなりません。今作では、なぜクレアとオーウェンがこのフランチャイズのメインキャラクターなのか、なぜこの二人には責務があり、自らのアクションに対して救いが必要なのかに重点を置いています。バヨナ監督はこの点をよく理解し、上手く表現してくれたと思います。

──そんな中で新キャラクターのメイジーが登場するわけですが、彼女はあなたの発案だったのでしょうか?
はい、そうです。バヨナ監督も、我々がシリーズを通して語ろうとしているストーリーで彼女の存在が持つ可能性をすぐに理解しました。そして、どのようにして彼女の秘密(=クローン人間であること)を明かすのが良いか、一緒に一生懸命考えました。観客に完全に展開が読まれてしまうのではと感じる時もあれば、暴露シーンまで気づかれないのではと、観るたびに印象は変わりましたが、実際には、すぐにこの展開が読めてしまう人、終盤まで気づかなかった人、さらには映画が終わってもわからなかった人など、様々でした。普段観ている映画の数によるのかもしれませんね。世界中の様々な年齢層の観客に向けてこのようなストーリーを組むというのはとても難しく、危険な賭けでもあるのです。

──それにもかかわらず、シリーズのこのタイミングでクローン人間を登場させるというのは、どういった判断だったのでしょうか?
私には、人間をクローンにするほうが、恐竜のクローンを作り出すことよりも現実味のある話である気がします。人間のDNAは実際に手元にあるわけですし、ちょうどバーバラ・ストライサンドは飼い犬のクローンを作ったところですし(笑)。ですので、人々は愛情や寂しさを理由に生命をクローンで”作り出して”いる現実があり、6500万年前に存在したものをクローンするよりも、よっぽど関係のある話だと思うのです。

──メイジーは(2021年公開予定の)次作でも重要な役割を担うのでしょうか?
はい。

──ちなみに、メイジーの乳母は無事逃げられたのでしょうか?安否が気になります。
どうでしょうね。彼女の解雇を告げられたあとに、館の中はカオスに包まれるわけですが、確かに彼女の身に何があったかは明かされていませんね。そのうちわかることでしょう。

──これまでのジュラシックシリーズ作品は、人々は恐竜から逃げ、恐竜はコントロールすることはできないという描写が基本だったと思います。一方で『炎の王国』では、人々が恐竜を積極的に救おうとします。この変化はどういった意図なのでしょうか?この関係性の変化は今後も続いていくのでしょうか?
そうですね、私は恐竜がただのモンスターだという印象を観客に持ってもらいたくありませんでした。人工とは言え、恐竜たちも命ある動物で、全ての生き物が持つ権利と尊厳を彼らも持っています。この映画を観る子どもたちが、地球上に住む動物たちに対する姿勢として感じてもらえればと思います。それに、恐竜と人々の関係が時間が経つにつれ変化しないと、映画の内容も同じままになってしまいますので(笑)。

──シリーズ各作品のエンディングを比較してみると、『炎の王国』ははじめて人間ではなく恐竜が逃げ出す映画なのではないでしょうか。このことが持つ意味とは?
そうですね、本作の終わりはまさに”大脱獄”ですよね(笑)。恐竜とDNAが世界中に運搬されたほか、アメリカでは恐竜が野に放たれたことにより、恐竜が一気に拡散することになります。これは様々な可能性が拡がるよう、地球上の生物バランスをシフトすることを意図したものです。

──エリーやサムといったオリジナルシリーズのキャラクターは、今後再登場するのでしょうか?
そう願っていますし、再び登場させることに私はとても興味があります。今言えるのはこれだけです(笑)。私は彼らのことを尊敬していますし大好き過ぎるので、前作や今作で再び登場させることもできましたが、違和感の残る不自然な形になりかねず、実現させませんでした。ですが、今後は現実味のある機会がある気がしています。

──次作でいちばん期待していることは何でしょう?
バヨナ監督は3部作の中間作として、登場キャラクターのみならず、フランチャイズ全体を足元から揺るがす、素晴らしい映画を作ってくれました。フランチャイズの良い部分を失うことなく、これまでとは異なったコンテクストで、よりグローバルな視点で次の作品を語ることができるようになったことに、とても満足しています。最近失われがちだった、私が大好きなサイエンス・フィクションとしての側面も次作では描けそうで、とても興奮しています。

──科学をとても重要な要素とお考えのようですね。日本では理科離れが問題となっています。
非常に大事だと思います。もはや科学を扱うフランチャイズはジュラシックシリーズだけなのではないでしょうか。前作と今作では、人間と恐竜の間に感情移入を生み出し、恐竜も安全に生息できる場所を持つべき動物なのではと人々に考えさせることに私は集中してきました。これにより、感情的にも知的にも刺激のある物語を描くことができるようになったと思います。理科離れの問題は、アメリカの方が深刻かもしれません。ですので、本作では古獣医のジアというキャラクターを登場させることが重要だったのです。世界中で直近10年間に掘り出された化石の量は、それまで長年かけて掘り出されていたものの総量を上回っていて、もちろん技術的な進化も要因としてあるでしょうが、『ジュラシック・パーク』に触発されて大勢の古生物学者が出てきたことが原因なのではという説があります。古獣医のキャラクターを登場させることで、絶滅危惧種の保護に興味を持つ子どもたちが増えるなら、素晴らしいことだと思います。

──以前、新シリーズ3部作では1作品のみ監督すると仰っていたと聞いたのですが、何がきっかけで方針を変えられたのでしょうか?
厳密には、”次の作品は監督しない”と言ったのだと思います。そしてその通りになりましたよね(笑)。作品ごとに異なった監督を立てたいという意図の発言だったのだと思います。前作の公開後、観客がこれまでとは異なった視点や描写を求め、今作で私たちはそれを達成しました。ですので、次作に向けて、また違ったものが期待されると良いなと思います。ジュラシックシリーズは、何十もの圧倒的なスーパーヒーローや、何百万もの惑星が登場する終わりのないユニバースではありません。観客を魅了し続けるには、変化を加え続けることが必要で、監督を変えるのもその一部だと考えます。

──次作の後には、なにか予定はあるのでしょうか?
いいえ、今は次作に1000%集中していて、エミリー・カーマイケルという素晴らしい脚本家と一緒に進めています。『炎の王国』制作時よりもスティーブン(・スピルバーグ)を巻き込もうと思うので、彼とはこの夏に一緒に進める予定です。シリーズ6作品の完結作ですから、これまで私が積み上げてきたものに加え、彼のビジョンをしっかりと反映させなければなりません。結局のところ、彼は私の上司のような存在ですよ(笑)。

──あたなのお気に入りの恐竜は何ですか?
いくつかあります。『炎の王国』に登場するものでは、スティギモロクですね。頭や尻尾でなんでもつぶす小さい恐竜が私の好みです。過去作に登場したものでは、アンキロサウルスですね。映画に登場していないものでは、ミクロケラトゥスという、トリケラトプスのような頭部を持つ恐竜で、とにかく見た目がカッコいいんです!

──次作でミクロケラトゥスは登場するのですか?
ぜひ登場させたいと思っていますよ。これまでの映画では特に登場させる理由がなかったのですが、次作では何かしらの理由を絶対に見つけます!

──もし現実にジュラシック・ワールドが存在したら、あなたは訪れると思いますか?
おそらく行くと思います。こうした施設を運用するのは安全性に信用のおける機関だと思うので…。”あんな島に行くような人はいない””もちろん恐竜は逃げ出す”といった意見もわかりますが、恐竜が逃げ出すのは映画の中だけだと思いますよ(笑)。実際には、トラは動物園からよく脱走してオーランド(フロリダ州のリゾート地)の街中を歩いたりしますが、何度そんな事が起きても、我々は結局動物園に行きますよね。

──それでは、もしジュラシック・ワールドを造るだけの技術と資源があった場合、造りますか?
それはわかりませんね……。やはり、この映画に込められたメッセージは正しいものだと思います。私にとっての最大の問いは、”絶滅した動物を人の手により甦らせるべきか”というものです。最近、キタシロサイ最後の雄が死にましたが、もし我々にこの動物を甦らせることができるとしたら……答えはわかりませんが、関連のある興味深い質問だと思います。

──それは次作で描かれるものですか?
はい、これがまさに我々が向き合おうとしている問いです。

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『ジュラシック・ワールド/炎の王国』(原題:Jurassic World: Fallen Kingdom)

製作総指揮/スティーヴン・スピルバーグ、コリン・トレボロウ
製作/フランク・マーシャル、パトリック・クローリー、ベレン・アティエンサ
キャラクター原案:マイケル・クライトン
脚本/デレク・コノリー、コリン・トレボロウ
監督/J・A・バヨナ
キャスト/クリス・プラット、ブライス・ダラス・ハワード、B・D・ウォン、ジェームズ・クロムウェル、テッド・レヴィン、ジャスティス・スミス、ジェラルディン・チャップリン、ダニエラ・ピネダ、トビー・ジョーンズ、レイフ・スポール、ジェフ・ゴールドブラム

日本公開/2018年7月13日(金)全国超拡大ロードショー!
公式サイト
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