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2018.09.19 6:18

この秋のイチオシ新体感ホラー『クワイエット・プレイス』極上爆音上映試写会レポート

  • ichigoma

アメリカの映画評論サイト「Rotten Tomatoes」で”95% Fresh”の高評価を叩き出し、ホラー映画としては2017年に公開されたヒット作『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』を上回る絶賛を浴びている『クワイエット・プレイス』。

荒廃した近未来を舞台に、音を立てたら襲ってくる”何か”に怯えながら息を潜めて暮らしている夫婦とその子供達の姿を描いたサバイバルホラーです。

口元を手で覆いながら涙を流す、母親役のエミリー・ブラントの顔面アップと「音を立てたら、即死。」のキャッチコピーによる日本版ポスターからは、本編から切り取られた“緊迫の一瞬”がひしひしと伝わってきます。

9月28日(金)の日本公開に先駆けて、そんな『クワイエット・プレイス』の試写会が9月14日(金)、立川シネマシティで開催されました。

立川シネマシティといえば“極上爆音上映”と“極上音響上映”の聖地として知られています。音響の専門家をお招きし、その作品用に音響調整を施して上映するスタイルには、多くの映画ファンからの定評があります。かくいう私も、この劇場のファンで、「シネマシティズン」の会員です。

そして今回の『クワイエット・プレイス』は、なんと極上爆音上映での試写会!

いやぁすごいですねー、太っ腹デスネー(棒読み)

……そもそも私、ホラー映画自体が苦手なんですよ。

ホラー映画にも、人体パーツがスパァン!と飛んで流血ドバーなスプラッター・グロ系から造形ディティールが不気味なクリーチャー系、そんなクリーチャーが精神的にギリギリと切り詰めにくる精神攻撃系などいろいろありますが、これら全部がダメな人です。アクション映画や戦争映画でも、あまりにも酷いと判断した流血シーンが出てくると目を閉じてやり過ごしてます。まんまるな瞳が可愛いギズモのビジュアルに惹かれて観たら、後半の乱闘戦に脳内真っ白になった『グレムリン』のトラウマがあるのか。

2017年に公開された『ゲット・アウト』の時は、人種差別を土台にした社会派作品だと思ったらまさかの地雷源を踏んで、大怪我を負ったパターンもあります(涙)。

なのに、なのにですよ。

なんで私は立川シネマシティの最高の音響で観るのでしょうか……。

実は、『クワイエット・プレイス』はすでに試写で数日前に鑑賞済み。試写室の比較的小さなスクリーンでも、臨界点スレスレだったにもかかわらず、“極爆”がどう人体に影響するか、予想がつきません。

そんなワケで本レポートは、「ホラー耐性皆無の人間に『クワイエット・プレイス』を極上爆音上映で投与してみたら一体どうなるのか」についてお届けをしたいと思います。

場内が怖い

今回の試写会は立川シネマシティ シネマ・ツーのb studio で開催されました。理由は後述しますがメインスクリーンのa studioじゃなくb studioを用意して来た辺り、立川シネマシティのガチ度が感じられます。

この劇場は、出入口は2箇所あって、通常上映では4階にあるスクリーン後方の出入口(もぎり)から入場して、終映後はスクリーン前方の出入口、建物の3階から退場する流れなのですが、本試写会では3階からの入場でした。こっちから入るのは初めてなのでドキドキします。

うぎゃゃゃゃぁぁぁぁぁ!!

か、館内照明、館内照明が赤いよぅ!!!各座席のライトもいつもは暖かみのある黄色系の光が各座席に灯ってる筈なんですけどぉぉ!?

通常の立川シネマシティ。こちらはa studio。

照明色一つで一気に増すホラー感と危険度。ホラーファンにとっては、気の利いた演出、私にとってはダメ押しの拷問です。

ガクブルを抑えつつも自由席ってことなので、ド真ん中辺りの座席を確保。私にしては珍しく、壁面スピーカーの真横列を敢えて外したのはせめてもの悪あがき。椅子に座って上映開始を待ちますが、まわりのみなさんは期待に満ちているのか、ワイワイと和やか。美味しそうにポップコーンとかもぐもぐしてるし、なんでそんなに余裕ナンデスカ。

心の平穏を求めてスマホをペチペチいじってると、シアター前方にスタッフさんが現れまして試写会開始の挨拶と注意事項が告知されました。

スタッフさんが去ると、スクリーンに投影されてたタイトル画面と緋色に染められた照明も消えて真っ暗に。

さあ、恐怖の始まりです。

これくらい怖かった!被験者Iのレポート

と、本来ならば「あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!」と赤裸々なレポートをお届けすべきなのでしょうが、本作はネタバレ厳禁の作品。ネタに抵触しないよう、極爆上映体験レポートをお届けするのはなかなか矛盾もあるのですが、ご容赦くださいませ。

結論から言いますと、

上映時間約90分中で「最低12回」、

座席からビクッ!と飛び上がる程度の恐怖を味わいました。

平均7分30秒毎に1回のペースで心拍数が爆上がりって、なかなかのスコア。ハアハア。

ホラー映画って、突然やって来る系の恐怖と、登場人物は気付いてないけど観客は何が起きるか予想が付く系の恐怖、両方あると思うんですが、これらの合算値でこの数値です。お隣に座られていた方、こんなセルフ4DXなヤツが近くにいて申し訳ない。でも、左隣さんは一緒に飛び上がっていたよね?ね?

また、上映が始まってから暫くの間は場内から咳払いや物音も聞こえましたが、後半に進むにつれてそういった“生活音”も聞こえなくなり、客席がしんと静まりかえったのが印象的でした。作中の世界と客席の空間がリンクし、もしここで何か音でも立てようものなら”何か”がやって来るのでは?と、息を潜めて音を立てられない緊張感。

近年では上映中の発声や手拍子を許可し、お祭りのように映画上映を楽しむ「絶叫上映」や「応援上映」が流行っていますが、本作は誰かに言われたわけでもないのに些細な身動きでも自制しようと気持ちが沸いてくるあたりが、特徴的です。

静音と爆音のアップダウン

恐怖により、あと一歩でロスト寸前まで追い込まれた己のメンタル虚弱ぶりだけではアレなので、”音響”と言う面から『クワイエット・プレイス』極上爆音上映を紐解いてみたいと思います。

音に反応してやって来る”何か”から逃れるために、音を立てずに生活するアボット一家のサバイバルを描く本作。

音を立てないように裸足で歩き、物を動かす時もそろそろと慎重に扱うのが彼らの日常。しかし人間が生きていく以上、一切音を立てないのは無理な話で、しんと静まり返る静寂の中に響く、普段は気にも留めない体重を受けて軋む床板の音や衣擦れの音、建物内をすっと吹き抜けていく風の音などの一つ一つが、極上爆音上映では明瞭に表現されています。

特筆したいのが一家の暮らす無音の部屋に漂う蝋燭の燃える音。普段でも聴く機会がほとんどないであろう音が、本当にかすかに耳を澄まさないと聞こえないレベルの音量で流れているのが素晴らしい。音響調整、最高です!

実際、数日前の試写室での鑑賞では、全体的な迫力自体もさる事ながら、この蝋燭の燃焼音を耳で拾い上げるのは難しかったです。

単純に音量を上げるだけではなく、埋もれてしまいがちな微細な音にも目を付けて際立たせる。音響の専門家が調整に携わり、シアターごと、あるいは作品ごとにベストな音を導き出して磨きを掛けられた”音”を美味しくいただける極爆上映。そんなご馳走は、本当に贅沢です。ありがとう立川シネマシティ。

本作はセミ・サイレンス映画に近い部分もありますが、それだけで終わらないのがホラー映画。

緊迫感のあるシーンを演出する短調と変調が繰り返されるBGMと、それを突然爆音でドカン!と鳴らしてくる音の恐怖は尋常ではありません。作中にある某シーン、結構な音圧の爆音が連続も。

また、演技面でいう個人的に推したいのが、一家の長女役として出演しているミリセント・シモンズ。

今年の春公開されたトッド・ヘインズ監督の『ワンダーストラック』では、憧れの女優に会うために家出する12歳の聴覚障害の少女を熱演しています。彼女自身も聴覚障害を持っており、本作でも手話を交えた巧みな演技を披露していますが、ぴしっと揃った指先や力強い動作に芯の通った意思の強さが現れてて、とても惹きつけられました。ナチュラルな太い眉や、健康的でむちっとしたほっぺたや体型も可愛いです。今後も出演作はチェックしたいところ。

そして父親役のジョン・クラシンスキーもいい味出しています(本作では監督も務めています)。一家の大黒柱として家族を守り、愛する妻をいたわる男を情感込めて演じていて、完璧ではなく、ある意味ちょっと不器用な所もポイント高いです。エミリー・ブラントとは実生活でも夫婦という事もあり、夫婦二人っきりのシーンに流れる穏やかで温かい空気は、本作でも見所の一つだと思います。

もちろん、主演のエミリー・ブラントは最高です!女性だからと一方的に守られるだけでなく、幼い子供達を守る母の強さ、どんな時でも諦めない精神力と機転。家族との一時で見せるチャーミングな表情も素敵。

この映画は基本ホラーなのですが、これらの演技派俳優たちの功績もあり、常に死と隣り合わせの環境に置かれながれも、懸命に生きようとする家族の絆と愛情の深さには心打たれます。

b studioの本気

さて、今回の極上爆音上映のスクリーンとして使用されたのはシネマ・ツーの b studio(303席)。

立川シネマシティはスクリーン名が全部アルファベットになっており、シネマ・ツーにあるa studio 〜 e studioの中で一番座席数が多いのはa studio(384席)。

a studio がメインスクリーンであるのは確かなのですが、席数が多い=どんな上映にも対応できる最高の万能スクリーン、とは限らないのがこのシネマシティの怖いところなのです。

a studio は本来音楽ライブなどに使用されるラインアレイスピーカー(約6,000万円)を設置、場所自体も1階〜地下にかけて作られている関係もあるのか、地面の下から這ってくるような震動と重低音がお腹の下の方に強く感じられ、ハコ全体が鳴動して客席に襲い掛かってくる爆音加減は王者の風格すらあります。

というか、あれだけズゥゥン…ズゥゥン…と来ると、上映中に地震が来ても震度2程度なら誰も気が付かないのでは?

対するb studioは、どちらかと言うと背面や座面、体の中心に伝わってくる感じの重低音。轟音と地面からの地響き攻撃は a studio と比べると緩めですが、b studio の真髄は高音域帯を使った音響でしょう。

イベント等でマイクがスピーカーの近くに寄り過ぎたりしてキィィン!と高音が鳴り、咄嗟に両耳を手で塞いでしまった経験は多くの方がお持ちだと思うのですが、あのハウリングに近い音響表現が恐ろしいほど達者なシアターなのです。

話はそれますが、以前同 b studio で上映されたカンフー映画『イップ・マン継承』極上爆音上映。この作品では、主人公と敵役が鋼で出来た”八斬刀”と言う片刃の短刀を共に両手に持ち、激しい対決を繰り広げるシーンがあるのですが、カンフーアクションの完成度よりも刀がぶつかり合った時のジャキン!と言う金属音、そして余韻として響くキィィンという残響音が、観てるこちらの鼓膜にダイレクトアタックを仕掛けて来る、とんっでもなくヤバいシロモノに仕上っていました。聞き比べるためにその後で通常上映でも観てみましたが、そちらでは普通のカキン!って音だったので、極爆の嵩上げは凄いです。おそらくですが、ガラスを引っ掻く音も多分やらせてみたら b studioはエグい音を出してくるに違いないかと。余談ですが b studio で使用されてる音響機材は、a studioで以前使用されていたものが設置されてます。

背中からやってくる震動と高周波域な音の表現が得意な b studio。そして本作はホラー映画。ホラーといえば欠かせない高周波の音。

『クワイエット・プレイス』極上爆音試写会を a studioではなく b studioで開催したのは正解。バッチリ b studio 映えする作品である事は間違いないです。

宣伝プロデューサーさんに聞いてみた!

ということで、『クワイエット・プレイス』の宣伝プロデューサーである東和ピクチャーズの山本さんに、公開前の一般試写会では珍しい極爆上映試写会を企画された理由を伺ってみました。

「キャッチコピーが”音を立てたら、即死。”と言う言葉を使っているんですけれども、本作は非常に音がキーワードな演出をしている作品です。音がほとんどないシーン、音が盛り上がるシーン、感極まるシーンとそれぞれの“音”が楽しめる作品です。この立川シネマシティの支配人の方も本編をご覧いただいて、非常に気に入っていただけたので、“極爆”上映で音の恐怖を存分に味わっていただこうと思いました」

宣伝プロデューサーから観た見どころはどこですか?

「バスタブのシーンはひとつのハイライトで、そこの高まる緊張感は聴きどころだと思います。“新体感サバイバルホラー”という言い方をしているんですけど、劇場で観ていただくと一層分かると思いますが、場内での一体感、空気感がシーンとし、息が詰まるような感覚が他の作品ではなかなかないのではと思います。昨年ですと『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』『ゲット・アウト』、一昨年は『ドント・ブリーズ』など、高品質のホラーが少し旬になっていますが、この作品は今年の本命ホラーといえると思います。怖いのはもちろんですが、家族の絆だったり家族愛だったりというドラマの部分も深く、間口は広い。ホラーファン以外の映画ファンにも観ていただければと思います」

山本さん、ありがとうございました!音にこだわる映画ファン垂涎の“極爆”上映会、またぜひ企画してください!

このスリルと恐怖は、1週間くらいは体に染み付いて離れなさそうですが、私としては、クセにならないことを祈るばかりです。

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『クワイエット・プレイス』(原題:A Quiet Place)

音を立てると“何か”がやってくる。
音に反応し人間を襲う“何か”によって荒廃した世界で、生き残った1組の家族がいた。その“何か”は、呼吸の音さえ逃がさない。誰かが一瞬でも音を立てると、即死する。手話を使い、裸足で歩き、道には砂を敷き詰め、静寂と共に暮らすエヴリン&リーの夫婦と子供たちだが、なんとエヴリンは出産を目前に控えているのであった。果たして彼らは、最後まで沈黙を貫けるのか―――?

監督・脚本・出演/ジョン・クラシンスキー
脚本/ブライアン・ウッズ、スコット・ベック
製作/マイケル・ベイ、アンドリュー・フォーム、ブラッド・フラ-
キャスト/エミリー・ブラント、ミリセント・シモンズ、ノア・ジュプ
全米公開/2018年4月6日

日本公開/2018年9月28日(金)
配給/東和ピクチャーズ
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