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2017.10.21 18:24

“あの頃”のソーが帰ってきた!『マイティ・ソー バトルロイヤル』レビュー

  • Nishina

※本記事には『マイティ・ソー バトルロイヤル』のネタバレが含まれます。

アベンジャーズの中心メンバーであり、北欧神話の雷神トールがベースとなっているスーパーヒーロー雷神ソー。その単独作の最終章となる『マイティ・ソー  バトルロイヤル』がついに完成した。10月19日(木)の最速試写会にて鑑賞したので、本記事では各キャラクターに沿って見所を紹介してみたい。

 

©Marvel Studios 2017

 

まず最初に言いたいのは、本作『マイティ・ソー バトルロイヤル』のソー・オーディンソンは、ソーというキャラクターを決定づけるような、我々が心のどこかでずっと見たかったソーであることは間違いない、ということだ。

 

というのも、我々が(映画版で)最初に出会ったソーは、頭で考えるよりも先に手が出るような、ちょっとおバカで、けれどもどう見てもいい奴にしか見えない豪快な男であった。しかし『アベンジャーズ』以降、妙に静かで冷静な大人の男として描かれることが多くなる。

 

確かに、宇宙の彼方に消えた、愛する弟ロキが地球で殺戮を始めていたり、恋人に会いたいのに親父から王座を継げと言われたり、実母フリッガとロキが死んで(?)しまったり、しまいには地球人の魔女のせいで嫌な夢も見させられるしで、ソーのストレスは溜まる一方である。さらにアベンジャーズのチーム内で宇宙と行き来できるのはソーのみなため、チタウリやらインフィニティ・ストーンやらの説明もメンバー(と観客)にしないといけない。そんな説明力が求められる役割を担わされている中で、とてもじゃないがちょっとおバカになんかなっていられない。

 

だが、今回の『マイティ・ソー バトルロイヤル』ではそんな様々なしがらみから解き放たれ、『マイティ・ソー』の頃の思ったことはすぐに顔に出るような感情の分かりやすい、丈夫な身体でドジを踏みまくる親しみやすいソー・オーディンソンが帰ってきたのだ。

 

©Marvel Studios 2017

 

そんな愉快なソーを演出するために、『マイティ・ソー』でソーが初めて地球に降り立った時のように無敵のハンマーを失った不完全な状態で、ソーのことを誰も知らない環境の中に投下した。ソーが容易いことでは死なないことをいいことに、心身共に色々なダメージを負わせていくのだ。 そして、1作目の“地球”に取って代わる舞台こそ惑星サカールなのである。挨拶をしただけで縄にかけられ、拘束され、頭を刈られ、身体中にレッドのペイントを塗られて闘技場に参加させられるという不遇の扱いを、いつもの「俺はアスガルドの王子だぞ!」という必死の主張をしながら受けている姿は、ソー本人には申し訳ないがかなり笑える!

 

しかし、そんなコミカルな描写とは打って変わって、アクションシーンはかなり洗練されたものへと進化している。本作ではムジョルニアが破壊されてしまうが、ムジョルニアでの最後となる戦闘シーンが、これまでのソーがムジョルニアを使用した5作品のアクションシーンのどれとも違った、クールでダイナミックなものとなっていた。その衝撃と興奮は『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(14年)のキャップのアクションに勝るとも劣らないレベルだ。さらに双剣や、メイス、ライフルやグングニルなど様々な武器を使っていく姿も本作ならでは。そして、予告編にあった雷を全身に纏った真の「雷神」になるまでの過程は、主人公の潜在能力が徐々に開花していくという、まるで日本の少年マンガのような演出となっており、日本人であれば尚更見ていて興奮すること間違いないであろう。

 

©Marvel Studios 2017

 

『マイティ・ソー』シリーズは、ソーとロキの物語ともいえる。ソーが表向きの主役であれば、ロキは影の主役だ。悪戯の神として知られるロキなのだが、『アベンジャーズ』でハルクに叩き潰された瞬間からロキの方向性は定まってしまった。ロキが調子よく誰かを騙すよりも、誰かに痛ぶられている方が見ていて面白いということが明らかになってしまったのだ。『マイティ・ソー バトルロイヤル』ではそんなロキの扱いもさらに勢いづくが、上述したようにソーの方もそれなりに痛ぶられて笑わせてくるため、お互い方向性が合致したのか、もはやソーとロキがお互いに小競り合いを繰り返しながら、コミカルなリアクションをとり合っている。

 

『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』(13年)での二人の関係は、弟を許せない兄と開き直って茶化す弟という、喧嘩した後の気まずい兄弟のようであったのだが、『マイティ・ソー バトルロイヤル』では二人の間での嫌悪感や気まずさなどはとうに消え、お互い言うこと成すことにまったく遠慮をし合わない関係となったのだ。だからこそ、コミカルなやり取りも面白い。今のソーはロキにイタズラや裏切りにあったとしても「まあ、お前ってそういう奴だもんな」という心持ちで本気になって怒ることはないし、ロキももう別にソーを殺してやろうなどとは思っていない。よくも悪くもお互いを知り尽くしている。そんな関係性の中でロキが最後までソーについてくるのかは、劇場で確かめてほしい。

 

アスガルドの王であり全能の父オーディン。しかし彼は全く影のない善良で万能な存在というわけではない。「完璧な人間ではないからこそ共感できる」というマーベルキャラクターの定義は、このオーディンにも当てはまる。ソーとロキを育てた親であるということは、ヒーローとヴィランを産み出した存在でもあるということを意味しているのだ。彼の内には息子達への大きな愛と、王としての横暴さが臨在している。その両面は本作『マイティ・ソー バトルロイヤル』でさらに掘り下げられているが、横暴な部分がさらに掘り下げられても、ソーは決してオーディンを蔑視するようなことはない。そしてオーディンもまた、困難な状況にあるソーに率直な答えを教えず、ソーが自ら道を切り開けるヒントだけを与えて見守る精神的な支柱として大いに存在感を発揮している。

 

©Marvel Studios 2017

 

本作のヘイムダルは、もはやあなたが王になったら良いのではとさえ思えてしまうほどに、他の誰よりもアスガルドの為に奮闘していた。なにせ今回は、アスガルドのプリンスのソーと偽の王ロキが、仲良く揃ってサカールに行ってしまっているし、先代の王オーディンもロキのせいでどこかにやられてしまっているという、王という王がいない中で、どう頑張っても勝てそうのないヘラが、同じアスガルド人であるはずのスカージを従え侵略を始めてしまったという、とにかくアベンジャーズでもなんでもよいから誰か助けてと言いたい状況でしかない。そんな中でヘラに気づかれぬように、アスガルドの民を守る為たった一人で、的確かつ慎重に行動するヘイムダルは最も頼り甲斐があるキャラクターだ。

 

本作で初登場となるヴァルキリーとスカージ。特筆すべきなのはこの二人がこれまでに見たことの無いようなタイプのアスガルドの戦士であるということ。これまでの『マイティ・ソー』におけるアスガルドの戦士はソーの良き友であり、「アスガルドのために」という掛け声と共に危険を顧みずに戦いに赴く、勇敢な戦士という印象だった。しかし、ヴァルキリーとスカージはそんな固定観念を吹き飛ばしてくれるキャラクターである。

 

©Marvel Studios 2017

 

惑星サカールでグランドマスターに仕えているヴァルキリー。アスガルドの伝説の戦士であるのにも関わらず、故郷の王子であるソーにとにかく災難を与える存在である。だが、彼女の存在は『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』でも垣間見えた、オーディンが自国の戦士を何人犠牲にしてでも敵を倒すという横暴な指揮が生み出してしまった、アスガルドの暗い歴史を背負った重要なキャラクターなのである。

 

©Marvel Studios 2017

 

スカージは死神ヘラに味方するアスガルド人のヴィラン!と言いたいところだが、演じているのはあの『ジャッジ・ドレッド』(12年)のカール・アーバンである。よってスカージが、ただただヒーローに倒される小者のヴィランとして収まるはずも無く、彼には彼の物語がしっかりと用意されていた。彼の目的は一つ、自らの力を証明することである。そう、本作のスカージは、『マイティ・ソー』(11年)でヨトゥンヘイムに乗り込んだソーと重なるのだ。そんな彼の「答え」には、もしかしたら本作で一番感情移入できるかもしれない。

 

©Marvel Studios 2017

 

本作のヴィランである死神ヘラ。ムジョルニアを片手で破壊したMCUシリーズ内でも最強クラスのヴィランではあるものの、着目すべきなのはそのパワーではなく、彼女の動機だ。『マイティ・ソー』のヴィランであったロキは、アスガルドを我が物とするために暗躍したが、そこには自分こそアスガルドを統治するにふさわしいという彼なりの主張と、敵国の養子であったという不平な背景が動機となっていた。本作のヘラもそれを踏襲したかのような主張と背景を持っている。そしてそのヘラの主張と背景が重なった動機は、間違いなく『マイティ・ソー』シリーズを締めくくるヴィランとしてふさわしく、納得のできるものであった。

 

©Marvel Studios 2017

 

これまでの『マイティ・ソー』シリーズにおけるソーの仲間達は、皆旧知の仲であり、すでに出来上がった関係性であった。しかし本作では、そんなお馴染みの仲間達を頼ることが出来ず、ソー自ら新しい仲間を作らなければならない。そんな中で「仕事仲間」であったハルクは最も話が早いはずなのだが、同じアベンジャーズとして話が通用するのはバナーの方であり、ハルクの方の頑固で子供のような人格とは1から友情を築かなければならない。ただでさえ不遇な状況下にあるソーだけに、ハルクと同じレベルで張り合うのであるが、何も飾ることなく、格好つけることなく、とにかく素でハルクと距離を縮めようとするソーの姿は、ハルクだけでなく我々観客もどこか心温まるような瞬間があるのだ。

 

振り返ってみればソーは一国の王子であり、常に周りから駆け寄られるような存在だった。地球に初めて来た時も、ジェーン達の方がソーに興味を持って関わりを持つようになり、アベンジャーズも入ろうと思って入ったわけではない。そんな人気者で友達や仲間が自然と付いてくるようなソーが、ハルクという頑固者のために自ら歩み寄ろうとすること自体が新鮮で、ソーのまったく新たらしいキュートな一面として描かれている。

 

前作の『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』は2作目ではあるものの、『マイティ・ソー』シリーズで掲げられている様々な問いにそれなりの答えを出している作品だった。ソーとロキの和解、王になるよりも良き人間でありたいというソーの決断、最後にようやく地球に戻って来たソーがジェーンと結ばれるなど、『マイティ・ソー』は全2作で終わりですと言われてもまあ納得ができるほどだ。

 

『マイティ・ソー バトルロイヤル』の予告で、新しい舞台で新しいキャラクターが登場したことから、一部ではまったく前2作とは関係のない作品なのではないのかとさえ思われていた。しかしながら、本作は『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』で出されたテーマの答えを、違うアプローチで回答し直し、『マイティ・ソー』で観客を引き込んだ要素も詰め込みつつ、最高に笑えるコメディな台詞とダイナミックなアクションで押し進めた。『マイティ・ソー』シリーズの最終作を冠するにふさわしい最高傑作である。

 

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©Marvel Studios 2017

 

『マイティ・ソー バトルロイヤル』

アベンジャーズの一員として地球を守るため戦ってきたソーの前に<死の女神>が立ちはだかった。死の女神・ヘラは、ソーの究極の武器ムジョルニアをいとも簡単に破壊すると、彼の国へ攻撃をはじめる。ヘラの復讐と野望を知ったソーは、この最強の敵を倒す ため、盟友ハルク、宿敵ロキらと型破りのチームを組み、極限バトルに挑む!果たして、ソーたちは史上最強の敵からこの世界を守ることが できるのか?死の女神・ヘラの復讐の目的は!?そこには、ソーの運命を変える秘密が隠されていたー。

 

監督/タイカ・ワイティティ

製作/ケヴィン・ファイギ

出演/クリス・ヘムズワース(ソー)、 マーク・ラファロ(ハルク/ブルース・バナー)、トム・ヒドルストン(ロキ)、 ケイト・ブランシェット(ヘラ)、アンソニー・ホプキンス(オーディン)他

 

配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン

2017年11月3日(金・祝)日米同時公開

公式サイト